臆病なサイモン
* * *
えーと、ここ、屋上。
俺のフリーダム。
入口んとこ以外は、でかい遮りとかなくて、金網で囲まれてる。貯水タンクで日陰ができて、風がよく通るから、マジでキモチィ。
ちらり。
スマホ見たら、時刻、六時四十五分。
さやさやと夕方特有の、柔らかで中途半端な湿度の風が吹いていた。
イイ空気じゃーん、と、思わなくもない。
じっくりと見上げた空は、じわじわと夜に変わりつつあったし、その色の変化は俺から見てもキレイだった。
俺のフリーダム、やっぱ最強、最高、ワンダホー。
でも今日は、それをひとり占めできない。
なんでこんなことになってるかって?
俺にも解らない。
なぁブラザー、教えてくれよ。
出来れば頭の弱い俺にも理解できる言葉で。
「コンビニに行ってた」
はい、これあげるよ。
と言って、カラフルなチョコを俺の手の平にバラまいたのはダンゴさん。
あ、どうもっす。俺、チョコ好きっす。
……じゃねぇ。
「あなたが校門出たの、俺、見たんですけど」
前述、俺のぼやきに対して、ダンゴさんが放ったお言葉である。
いったん外に出てコンビニでチョコレート買ってきたらしい。
買い食い禁止なの知ってる?
知らない。転入してきたばっかだし。
嘘つけ嘘つけ確信犯だろ。
静かな屋上を爆笑の渦に巻き込んだ俺の決死のアタックから、実はまだ数分しか経ってない。
なぜか俺、さっきまでトス交わしてた相手と教室と同じように隣同士で座ってる。
なんで、なんでだ。
しかし俺の苦悩をダンゴさんが知るわけもない。
「お腹、空いてたし」
と、ダンゴさんは続ける。
そう言う彼女の足元には、パイナップルジュースの紙パック。チョコレートだけじゃなかった。
どう考えてもピクニック気分だろ。
「なんでわざわざ…」
ここからコンビニまで、十分は歩くのに。
屋上でまったりする為に、わざわざ?
わからねー。
「屋上、好きなんだねー…」
ついつい、ぼやいたら。
そのまま、じ、と見つめ返された。
ちょっと細めの眼が、ジリジリと俺を射抜いている。
迫力、ある。
なにを言われるのかと思えば。
「…サイモンくんと、大して理由はかわらないよ」
と、しれーっと返された。
さらりと視線が逸れる。
その無表情な横顔に、こっちを見ようともしない真顔に、どくーん、てなる、俺の心臓。