臆病なサイモン







俺、俺ね、ダンゴさん。

そういうの、苦手なんだよ。

(俺の中身、透視されてるんじゃないかって…)

口には出さないけどさ。




「…屋上は、いいストレス発散になるよね」

さりげなさを装って、体育座りの俺は言う。

なにこの感じ。

どうしよう。俺、超根暗っぽい。

そんな俺、ダンゴさんに一瞥されて。


「…そういうことにしとく」

笑われた。

そこでぴゅ、と横殴りの風。

どんなタイミング。

演出しすぎでしょ。やめてよ。

で、なにか言わなくちゃ、マズイだろ?な状況。




「…なんか、俺、ダンゴさん、苦手ぽい」

できるだけ冗談ぽく、本音。

だってこの人、なんかやだ。

まるで、賢い大人を相手にしてる気分になる。

俺が一番苦手な人種が隣にいる。

俺の一言一言から、俺の性格や心理や秘密、一番隠しておきたいどろっとしたヘドロのような、土を混ぜた水飴のような、居たたまれない感情を、じわじわとプロファイリングされてるような、そんな気分にさせる。


――逃げ出したい。





「わたしも、サイモン君が苦手」

今度は笑われなかった。

すっげー真顔。俺並みに本気ゆってるってわかる。

まだ会ったばっかりなのに、俺達ってば不毛ですね。なんて、言えない空気。


逃げたい。

口にして叶うなら、何度でも言う。

逃げたい。

今すぐゲットアウェイしたい。


夕暮れと夜の狭間。空は美しい。
けど、心を許さない相手を隣に、お互いに苦手発言しあって、そんな状況で、ハートに滲みるわけねーだろ?

(ダンゴさん、早く帰ってくれないかな……)

理由なんてなんだっていい。
飼っている犬が腹痛だとか、観たいテレビがあるとか、今日はフルートの教室だからとか、今夜はハンバーグだからとか、なんでもいい。

明らかな嘘でも騙されるから。

(ここから今すぐ去ってくれよー)

そんな他力本願、自分が情けないったらないけども、仕方ないじゃん。


俺、まだ帰りたくない。

まだ帰るには早い。

今、帰ったら、家には―――。




「…帰りたくなくなるよね」

じゅー。

いつ開けたのか、パイナップルジュースを勢いよくストローで吸い上げて、ダンゴさんは言った。

今まさに俺の思考とジャストフィット。彼女とはなんか、多い気がする、そういうの。

思わずゾッした。

昨日と近い感覚。

妙なデジャヴ。

彼女が、こわい。






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