臆病なサイモン







「…んん?」

なに、と横を見れば、ダンゴさんが立ち上がっていた。

翻るスカートの中身が今にも見えてしまいそうでヤバイ。




「だ、段…、」

見えるよ、秘密の花園(パンツ)。

と言いかけて、その険悪な表情に慌てて口をつぐむ。
空か街か河か、とにかくそれを睨みつけるように、ダンゴは口元に力を込めている。


なになになに!?

急に変貌した彼女についていけない。

怒っているのか、彼女からはフツフツと強烈ななにかが湧き上がっているようだ。

サイヤ人みたいな。




「…眩しすぎる」

ジリ、と靴の裏で砂が擦れた音がした。
俺かダンゴか、どちらの靴かは解らない。



「星が見えない」

それでも怒る彼女は続けた。
俺には理解しようのないロマンチックな言葉だったが、心底から気に入らないというように声は低い。




「星、なら、見えてるけど…」

俺は俺で、訳が解らないままそう返していた。

空が明るいとは言っても、星や月が全く見えないことはない。

ネオンの遥か向こうでチカチカしてるのは確かに星だ。

多分、北極星だって見える。

ダンゴの地元がどうだか知らないけど、都会ナメんな。



しかし彼女は、そんな俺を皮肉って笑った。

唇の隙間から空気を漏らす、凶悪な嘲笑。



「こんな空しか見たことないの、ヒヨコのヒト」

見れば、にぃ、と嫌味な形にダンゴの唇は変形していた。
わざと傷付けるような尖ったニュアンスを選んでいるような……。

喧嘩、売られてる?



「そんなんだから、アタマ弱そーなキンパツなんだよ」

売られてるどころか押し売りされてるかもしれない。

「おいこら!…ぁいたっ」

思わずカッとなって、その襟首を掴もうと立ち上がって手を伸ばした瞬間。

パシコンッ。

セーラー服の襟に届く前に、その手はあっさりと叩き落とされた。
勢い良く空を切った手は所在がないままじんじんと痛む。

…ダンゴめ、こいつ馬鹿力だ。

俺のひとりコントのようなセリフは完全無視で、ダンゴは嘲笑を浮かべたまま冷ややかにネオンを見ていた。
この歳でこんな顔するなんて、どんな厭世家?て、びっくりおったまげる。




「…気持ち悪い。こんなとこ、来たくなかった」


気が付いたら、ダンゴは俺の隣に居なかった。


――眩しいネオン。

何時になっても絶えない灯りは、ダンゴが望む「夜」を呼ばない。







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