臆病なサイモン
ペッタペッタ。
屋上に繋がる階段を駆け上がる。
ホームルーム前の、ざわざわと騒がしい廊下を通り抜けて、たまに他クラスのダチンコに呼び止められたりして、ぶち当たりの男子トイレにも踊り場にも、誰もいないことを確認してから。
――ガチャッ。
「……あれれ」
いない。
開かれた扉から広がったのは、果てなく続く、くすんだアスファルト。更にその先にフェンス。で、青空。
みぎひだり、どこを見ても夏日に照らされたセーラー服は見当たらない。
人の気配が感じられない屋上に、思わず目が丸くなった。
(あ、そういえば、鍵…)
開けたか開けなかったか、思い出せない。
(見当違い?)
それを裏付けるように、ひゅうっと生温い風が吹いて俺のキンパツを巻き上げた。
――が。
「ここ」
高い声が聞こえたかと思えば、開いた扉が向こう側から閉められた。
迫る扉を避けて、慌てて振り向けば。
「…あ、だん、さん」
扉の真横、体育座りしているダンゴ発見。
っぶねえ。ダンゴさんていうとこだった。
てゆーかパンツ見えるよ。
「えぇーと……」
本人を前にすると、なんだかちょっと頭が冷えた。
てっぺんに広がる悪気のない青空が眩しい。
「…なにしに来たの、サイモンくん」
そして睨まれる。
上からのアングル。
垂らされた前髪をフィルターに、切れ長の眼が鋭さを増す。
ほんとなにしに来たのか、俺にもわかんない。
なにを言えばいいかも解らないまま、思わず考え込んで黙り込んでしまった。
そんな俺と視線を合わせたまま、ダンゴも口を開かない。
抜けるような青空の下、見つめあったままの俺達。
ワァーォ。
これで飛行機が低空飛行してキィィーンとか言ってたらもうパーフェクトだよな。
青春ドラマー。
「……座ったら」
くだらないこと考えてたら、ダンゴが視線合わせたままそう言ってきた。
俺、ちょっと迷ってから、いや、すげぇ迷ってからダンゴの隣に座る。
夏用スラックスの脚を前に伸ばして、ゆっくり扉に背凭れた。
思っていたより彼女からピリピリとした空気を感じられなかった俺は、口を開かないダンゴに倣って、黙って空を見てた。
じわじわ。
影に座ってるっていっても、気温が高いからシャツ下の肌が汗で湿る。
七月はじめ、梅雨が過ぎれば来るのは夏。
猛烈に暑い。