臆病なサイモン
(……あ、なんかパイナップルの匂いがする)
それは隣の彼女から漂ってきているのか、昨日のパイナップルジュースの残り香か――まあ、そんなわけないけど。
ベタベタしそうな甘い香りに誘われて隣を見たら、ダンゴは立てた両膝に額を乗せてぐったりしてる。
あれ、重症?
「……だいじょぶ?」
魔女のせいで気分を悪くしたのかと思って言ったんだけど、ダンゴは別の意味で受けとったらしい。
「ん、今日は暑い」
ゆっくり上げた顔は汗ばんでいて、細い髪が頬に張り付いている。
ちょっとセクスィー。
「…段さんの地元は、もっと暑いんじゃないの?」
確かダンゴの地元って、ここよりて南国だよな?
曖昧な記憶から引き出してみたぜブラザー。
ダンゴ……もとい段さんは、少し考えるように視線を上げた。
横から見るとよくわかる、愛嬌のある上向いた短い睫毛。
「……うん、暑かったよ」
あ、笑った。
ゆるーく上がった口許と、目尻に控え目に寄った笑い皺がなんか新鮮。
初日の爆笑ぶりはともかく、ダンゴの常のスタンスは「無表情」。
顔筋を使うことなんて滅多にない感じだから、こういう笑い方もするんだ、って。
「あのさ」
距離が近付いた気がすると、脳みそが柔らかくなって会話の糸口がぽたりと落ちてきた。
「〝ウッタクッゾ〟って、どういう意味?」
度々、ダンゴからは何語か解らない言葉が飛び出る。
一番最初に聞いたのは、「ウゼラシカ」?
ナウシカの親戚みたいなやつ。
感情がマックスになったら飛び出る感じだから、多分、地元の方言なんだろうけど。
俺の拙いクエスチョンに、ダンゴは視線を上げたまま、あぁ、と疲れきった声を出した。
「〝うったくっぞ〟は、うちの地元の言葉で、「殴るぞ」って意味」
へー。日本語じゃないみてぇ。
普段、他県の人間と関わる機会なんてないし、標準語くらいしか聞いたことないからすげぇ新鮮。
しかもそれが捨て台詞なんて。
「……イカすじゃーん」
マジでかっけぇな、ってダンゴに笑いかけたら。
「……イカすっしょ」
まさかのびっくり。
素直に笑い返してきた。
首筋に張り付いてる後ろ毛がなんか不可侵な雰囲気醸し出してるけど。
こっち見てるのは無邪気な笑顔で、年相応に見えてちょっとほっとした。