臆病なサイモン
(汗で潤ってるからかツヤツヤしてるし……。俺ってほんと思春期だな、気を付けよう)
けど、そうなるとちまちま気になるスカートの境界線やセーラーの胸元とか。
これはアダルティじゃねえ、変態だろ、俺。
話題、変えよ。
「…俺はじぃさんもばぁさんもこっちだから、そういう田舎持ってねーや」
親の地元に帰省するってこともなかったから、県外とか出たの修学旅行くらいだし。
そうだ、京都へ行こう!だったし。
「……でも、田舎も都会も暑いのは変わんない」
気だるげに呟かれたそれ。
パタリ、とわざとか偶然か、唇の力が緩んでスカートの上に空のパピコが落ちる。
全体的にぐったりと力が抜けたダンゴを見て、不思議に思う。
あれ、具合わるい?
「図書室に行けば?」
この時間帯、クーラーが効いてんのなんて図書室くらいだ。
暑さにやられたんなら、屋上にいないほうがいいよな、てやっぱり安直な考え。
「……いい。眠くなってきただけ」
「……こんな暑いのに?」
すげぇ。こいつタフだな。
でも、その気持ち、ちょっとわかる。
なんでこの空が清清しいかって、太陽に照らされた夏雲は、そりゃもう眩しくて潔癖で、見てたら目眩を起こすくらい白いからだ。
その目眩と白焼けに、脳みそが麻痺して眠くなるときがある、俺にも。
「……もうすぐ陽も落ちるし」
じわり、首筋に浮いた汗がシャツの中を辿ってヘソまで流れた。
シャツ脱いで、中に着てる黒ティーだけになろうか、とか考えたけど、なんかダンゴの前で脱ぐのも照れるし。
それより、汗で湿ったキンパツが妙に重い。
いつもはそんな感じないのに。
(夏本番だ)
首を振ったら、鼻筋にキンパツが一筋くっつきやがった。
ダラダラ湧き出る汗に、影から出ていた脚を引き寄せた。
あんまり変わらないけど、まぁ、身体の一部がギンギン照らされてるよりマシ。
「サイモン、汗飛んだ」
「あ、ソーリーソーリー」
ウトウトしてたらしいダンゴが不機嫌な声を出す。けど、文句言ってカバン抱えたまま寝た。
どうやら、マジ寝。
「……おやすみー」
小さく小さく囁いて、外してたイヤホンを耳に当てた。
ガンガン響くシカリに脳みそ揺さぶられながら、俺は瞼を閉じる。
耳に響く爆音と、目を閉じててもわかる、ちょっと離れた隣の体温。
妙な気分。
いつも独り。
俺だけのフリーダムで、俺とは違う体温。