臆病なサイモン
その日、俺はいつもより三十分も早く家に帰り着いた。
街頭が照らす帰り道。
ダンゴの言葉が脳内ループすることはなくて、ただ今までの「ダチンコ歴」がある奴らの顔ばっかがグルグルしてた。
今もたまにつるむヤツも居れば、挨拶もしなくなったようなヤツも居る。
俺はその中から、添削するような気分で振り分けしてった。
高校に上がっても仲良くできそうなヤツ……、休みの日でも遊んでいいって思えるヤツ…。
ハヤシキサラギマチバコウタハラグチミエケンタジュンヤモトヒロタケ…それから。
「――あれ、」
愕然。
答えを割り出して、思わず足がとまる。
街頭に群がった蛾がパチッと弾けたのを視界の端で捉える。
――だって俺、解ってただろ。
なのに改めて考えてショック受けるなんて、どんだけ、バカ。
だって、そういうヤツ、が。
――「そういうヤツが」、俺の中にひとりも居なかったか、ら。
相手から誘われれば行くけど、俺からは誘わないような、恋愛に奥手とか言ってる女子より受け身な関係。
これ、「ダチンコ」って言わない。
――わかってたつもりでわかってなかった。今、わかった。
俺って寂しい人間すぎる。
「あ、おかえりー」
玄関くぐって、「ただいま」を言おうか言うまいか迷ってたら妹がリビングから顔を出した。
真っ黒なおかっぱをさらさら揺らして、俺に駆けよってくる。
「兄ちゃん、今日は早いね」
小学生のこいつは、ちょっとブラコンの毛があるかもしんない。
スニーカーを脱いだ俺を見計らってタックルしてきたから、その小さい身体を持ち上げて高い高いしてやる。
「今日はね、みゆちゃん達と川に遊びに行ったよ」
俺に抱えられながら、楽しそうにはしゃぐ妹を見てちょっと安心する。
こいつにはちゃんと友達が居るんだな、って。
ばっかじゃねーの、俺。
自分には友達なんか必要ないって思ってるくせに、妹に友達が居ると解れば安心する。
矛盾ジャン。ホコタテじゃん。
俺は色んな人間に気を遣ってきていたつもりで、実は大概失礼なことをしているのかもしれない。
「……おかえり」
思えば、スタートはこの人からだ。
二階から降りてきた水色の作業服。
「彼」が、自前の黒髪を短く刈っているのは、キンパツで産まれた俺に気を遣っているからだ。
と、知ったのはいつだったかもう思い出せない。