臆病なサイモン
今まで通りにしてればいいじゃん。
と、何度も何度も自分に言い聞かせながら、結局なにも変えられない自分が情けなくて、思わずダンゴを窺い見た。
情けないヤツだな、とか思われてんじゃないか、ってビクビクして。
ほんと俺は臆病モンだよ最低だよ人の顔色ばっか窺ってさあ。
しかも誰かひとりの、じゃない。
とにかく自分に関わる全ての人間から好かれたいと画策してる俺はただの八方美人。
キンパツの八方美人。
ふざけんじゃねーよ!キンパツ関係ないし!一人ツッコミだし!
「……ちくしょう」
この目立つ髪を俺にくれやがった顔も知らない父親が俺の前に現れたら、俺はやっぱり今までと同じように笑顔を浮かべるのだろうか。
それがフェイクだと解っていて、それをしたら「本物の関係」など得られないと解っていて、笑うのだろうか。
フェイク、フェイク、フェイク。
気付いたら周りに合わせてばっかで「俺」の主張なんか一個もない。
「俺」らしいってなんだよ。
なんてリアル中学生みたいな悩みに悩まされてバカじゃねーの、と誰か一蹴してくれ。
「バカじゃないの」
望んでいた言葉は思いのほか身近にあり、思いのほか早く頂いた。
「……なにが」
理科実験の後片付け。
教室の並びと同じ席で受ける理科室での授業で、後片付けを命じられた俺とダンゴ。
どんだけ運命的なんだよ。
次はもう給食だから、別に急ぐ必要もない。けど、一体なにを言われるかビビってた俺は、フラスコをひたすら棚に並べながら内心焦ってた。
ところにダンゴの言葉。
オスギさながらに「バカじゃないのッ!」と言ってくれたらまだマシだったかもしれない。
ダンゴの冷ややかな言葉に、次はなにを言われるやら、と構えたら。
「……私にまで嫌われないように、なんて、ビクビクしなくていいんだよ、サイモン」
小さな背中を見せていたダンゴの声は、オスギよりピーこより誰より、優しかった。
「昨日は君に訊かれたから答えただけで、普段、君をあんな風に思ってるわけじゃないから」
君にもどうしようもないんだって、解ってるよ。
「心配そうにチラチラ見張らなくても、別に嫌いになったりしない。……今でも特に好きでもないのに」
優しさと辛辣が同居した言葉と共に、小さな背中が翻る。