臆病なサイモン
「……で、どうするよ、帰る?」
タピオカジュース片手にダチンコ達を振り向いた時だった。
ハイビスカスがくっついたセンスわりぃ水着を着せられたマネキンの向こう側。
見慣れたオダンゴ頭、発見。
うお?
身長が低いから、あのダンゴ頭はすぐ見えなくなっちまったんだけど。
人混みの間から覗く横顔は。
(いや、あれ絶対、ダンゴ、だよな…?)
最近、無駄に見慣れてるせいで無駄に自信アリ。
けど、まるきゅーの人混みは半端なくて、その小さな顔はすぐ見えなくなっちまった。
「ダ…、ッ」
思わず駆け出そうと脚が前に出る。
――が。
ぶしっ。
慌てたせいでタピオカが飛んだ。
握り締めちまったカップが変形して、手がミルクティ臭くなる。ついでに、まるきゅーの床も。
「うお…っ、なにしてんだよサイモン!」
ダチンコが寄ってきて爆笑の嵐。
あ、あ、あ、と思う間もなく、俺はダンゴを完全に見失っちまった。
見た限りじゃ制服のまんまだった。
着崩してない、いつものままの状態で、カバンもいつものやつ。
(……学校帰りに買い物、か?)
にしたって時間帯が遅い気がする。そもそもあのダンゴが、こんな界隈で買い物するか?見た限りはひとりだったし、誰かと連れ添っていたようでもなかった。
つまんなそうな顔で、だらだら歩いているような。
――まさか。
「……こんな時間まで、時間潰し?」
まさかそうまでして帰りたくないなんて思わなかった。
いや買い物って、まあまあ有力な説だよな?オンナノコなんだし、そりゃ、あるだろ。
(……でも)
時間稼ぎってのも。
(ないわけじゃない、よな)
寧ろそっちのがダンゴらしい気がする。
なんてったって、あのダンゴだから。
都内の夜空をバカにしやがったあのダンゴが、ネオン煌めく街まで出てくるなんて。
『アイツ、居候してんだって』
どんだけ帰りたくないってんだよ。
『なんで引越してきたの?』
こんなつまんない質問にも答えられなかったのには、やっぱ理由があったのだろうか。
でもだからって多分、俺はその答えをダンゴから貰えない。
それを本人に尋ねる勇気も、俺にはない。
他人に自分のエリアを荒らされるのがどんなにイヤで恐ろしいことなのか、知っているから、尚更。
――ダンゴは、なにを隠していたいのだろう。