臆病なサイモン
「…知らない」
今日一日で、このセリフ、九回は聞いた。
ちなみに面倒見のいいクラスメートの女子達が話しかけた回数イコール九回。
その度にクラスの空気が悪くなること九回。
それが俺の隣で繰り広げられること九回。
マジで俺、今すぐゴーホームしたい。
って思うこと、九回。
「おい、あの転入生、ヤバくね?」
ブラザーが言う。
やべぇよ。やべぇなんてもんじゃねぇよ。
女子達が転入生のところに休みの度に群がって、いろーんな話を持ち掛ける度に、彼女は言う。
「知らない、興味ない、どうでもいい」、と。
―――ねぇねぇ、どこに住んでたの?あのよく爆発する火山?火傷しないの?
―――お店でまず最初に漬物出すってホントォ?
―――黒豚とか普通に夕飯に出てくるってマジでそうなの?お裾分けとかマジで所望。
―――鹿児島って沖縄の上にあるとこでしょ?あ、苦瓜って食べれる?あれ食べ物だって言える?
まあ大半のお喋りが、「知らねーよ!それ聞いてどうすんだよ」て言いたくなるもんばっかなのは認めるけど。
でも拾うネタ満載。サイコーのトス上がってる。
のに、転入生「ダンゴ」は完全に興味なし。トス拾わない。ていうかトス見えてない。
女子達もそろそろピリピリしてきてる。こっええ。
「ダンゴ」……あ、「」つけるのめんどくさいからそろそろ外すね。
で、ダンゴはとうとう四限目の休み時間、今から楽しい楽しいランチタイムだぜって時になって、言った。
「もう話し掛けないで」
しーん。
てなるよ。なるだろ?
いくらクールな都会っ子の集まりだからって、ここまでクールになれって誰が言ったよ。
「わたしが住んでたのは、火山じゃないし、例え火山に住んでたとしてもそう簡単には火傷しない。店で漬物は出る。黒豚は頻繁には食卓に並ばない。苦瓜は食べ物だけど私の地元とはあんまカンケーない。そなんなことどうでもいいからもっと地理について勉強しろ、うぜらしか!」
喝。
まごう事なき喝。
ラストの「ウゼラシカ」てなに。「ナウシカ」の親戚?
方便とかちょっとイカすんじゃねぇ、なぁブラザー。
「…うぜら?」
しんとなった教室。
その瞬間を狙ったように、ダンゴは出て行った。
あの人、ひとりでサバイバル状態じゃん。
蒔かなくていい種、蒔きまくりじゃん。
ダンゴが出て行ったあと、妙な空気が停滞した教室。
廊下じゃあ、隣のクラスの奴らがわいわいがやがやしながら、給食当番が持ってくるだろう給食、待ってんのに。
俺達んとこの給食当番は、ひそひそなにやら言いながら、転入生のダンゴについてお喋りしてやがる。
オィ、白い天使ならぬ白いジャリ達よ、早く給食持ってこいよ!
「孤独なタイフーン、上陸だな」
ぽっちゃりブラザーが口笛を吹く真似をしながら言う。
やっぱりブラザー、アンタは天才だ。
「タイフーンて、ウケる」
そう口にしながら、でも俺は、笑えなかった。
愛想ない、無口、笑わない。
それって誰かにそっくりだよな、って、ヒヨコアタマの誰かが言った。