月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
酒井課長は部下を連れていなかった。

変わった人だなとあたしは思った。

課長クラスの人間が単独行動とは珍しい。

まぁこの件事態が特殊なものだし、あまり人は動かせないのだろう。

おまけに達郎という厄介な存在もいるし。

「では、松村の自宅へと向かいます」

酒井課長は車を発進させた。松村の自宅に行きたいと言ったのは達郎だ。

松村の人となりを詳しく知ることによって、何か暗号解読の糸口がつかめるかもしれない。というのが達郎の考えだった。

「お二人はB市に来たことはありますか」

酒井課長はルームミラーごしに、後部座席のあたしたちに話かけてきた。

「何度か来たことはあります」

「ほとんど素通りでしょう?」

酒井課長の見抜いたような笑顔につられ、あたしは苦笑いした。

実際のところ酒井課長の言う通りだった。

A県自体は都心から近いところにあるが、B市は交通の便が悪いせいか、A県の中心部とは言い難いところだった。

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