月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
最近では県庁所在地のある、隣のA市との合併の噂もある。

「私らのいる扇町はそのB市の中でも特に地味なところでしてね」

屈託のない口調で酒井課長は言った。

「江戸の頃は樽や桶を作る職人たちの町だったとか…そのせいってワケでもないんでしょうが、代々無口で、コツコツやるタイプが多いんですわ」

「松村武もその中の1人だったわけですか」

隣の達郎が口を開いた。

「松村の寡黙さは筋金入りでしたなぁ」

赤信号で車が止まると、酒井課長は視線を遠くへやった。

「秀才でなければ努力家でもない。でも与えられた課題はキチンとやる。しかしそれ以上のプラスアルファは見こめない―そんな奴でした」

「課長は松村のことをよくご存じのようですね」

達郎がそう訊いた時信号が青に変わった。

「あいつとは幼馴染みでした」

車を発進させながら酒井課長は淡々と答えた。

「同じ町内でしてね。子供の頃はよく一緒に遊んでました」

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