月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
なるほど。

あたしは納得すると同時に自分の想像が誤りかもしれないと思った。

捜査課長みずから出向いてきたのは、県警本部の要請ではなく、旧友の起こした事件に対する責任感だったかもしれない。

やがて車は扇町へと入っていった。

「松村が事件を起こした時はどう思いましたか」

再び達郎が訊く。

「えらいことをしでかしてくれた。最初はそう思いましたが、後からガンのことを聞きましてね。何とも言えない気持ちになったもんです」

自暴自棄な犯行に対する怒りより、同い年の幼馴染みが重い病を患っていたことへの複雑さが勝ったか。

50代ともなると死や病には敏感になるのだろう。

捜査一課のベテランたちも、たまにそんな話題を口にする。

達郎は質問を続けた。

「課長は松村の取り調べをされたんですか」

「ええ。はじめは顔なじみってことで遠慮していたんですが、300万の行方について黙秘を続けてたんで…」

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