月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「ここが松村の家です」

小さな商店の前に車は止まった。カーテンで中は見えない。

車を降りると梅雨特有の空気を感じた。

その空気に思わず顔をしかめていると、隣の達郎が眉間にシワを寄せているのが見えた。

こんな日でも黒スーツを着用しているのがアダになったかと思ったが、どうも違うようだ。

達郎の視線は松村の実家である雑貨屋の看板に向けられていた。

その看板には『つむら屋』とあった。

「なんで『つむら屋』なんだ?」

達郎はもっともな意見を口にした。

この場合は『まつむら屋』と書くのが適当だろう。

「『つむら屋』にしたのは松村のアイディアだそうですよ」

「なんでそんなことをしたんですか?」

酒井課長の言葉にあたしは首をかしげた。

「『まつむら屋』だと子供たちが言いづらいからだと言ってました」

「子供?」

再び首をかしげた。

松村は独身ではなかったのか?

「店に入れば分かるかと思います」

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