月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
顔を輝かせて店に通っていたころを忘れたくなくて自ら駄菓子屋を開いたのか。

あたしは地元から一歩も出ずに生涯を終えた、無口で陰気な犯罪者という松村への印象が、少し変わった気がした。

「店は繁盛していたんですか」

積み上げられた段ボールにあった『チョコバット』という商品名に、並々ならぬ関心を示しながら達郎は訊いた。

「近くに扇町公園というのがありまして。子供たちの集まりは良かったみたいです」

「公園?」

あたしは【公園を出て…】から始まる手紙の内容を思い出した。

「私たちもあの手紙の公園は扇町公園だと思ってます」

酒井課長はこちらを向いてうなずいた。

「ただ、その後が…」

確かに。

ワニの谷とか男の道とか言われてもねぇ。

「それじゃ二階に上がりましょうか」

達郎はそう言って階段へ向かった。

チョコバットの箱が空だったので(当たり前だ)興味が失せたらしい。

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