月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
達郎は扇署でひと通りリストを眺めた後、扇町の詳しい地図が欲しいと言った。

「見当がついたの?」

そう訊いてみたものの

「いや全然」

達郎は受け取った地図を眺めながら素っ気なく首を振った。

「これからだよ」

否定するほど怪しい。

あたしは達郎の耳元でささやいた。

「いま言えることだけでも言っときなさい」

「なんで?」の『な』の口を作った達郎にそっと目くばせする。

落ち着かない様子の酒井課長がそこにいた。

あんたは民間協力員という立場だけど少しぐらいは義理を立てなさい

そういった意味の言葉とまなざしを向けた。

「今日言えることは本当にないんだ。調べることもできないし」

鼻の頭をかきながら達郎は言った。

「でも明日調べて、そこで確信が持てれば一気に解決できる」

それは約束すると達郎は言葉を結んだ。

そこまで言われたらもうなにも言えない。

酒井課長には気の毒だと思ったが、結局そのまま扇町を後にした。

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