月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
車から降りる寸前、酒井課長はあたしに言った。

「私はあなた方を信じています。あとはよろしくお願いします」

あたしに言ったのか自分に言い聞かせたのか、どちらともとれる言葉の響きだった。

走り去る車に向かって、深々と頭を下げる。

そうせずにはいられない心境だった。

「さて、達郎はどこだ」

見つけたらとりあえず一発ぶん殴ろう。

そんな気分で、さして広くない公園をぐるりと見渡した。

中心部の噴水の中では、子供たちが男女問わず水と戯れていた。

噴水そばのベンチには母親らしき一団が見える。

当然その中に達郎の姿はなかった。

噴水から目を外し、そこから離れた木陰にあるベンチに視線を移す。

そこには噴水にいる子供たちより年上に見える、少年たちのグループが座っていた。

年齢は10歳ぐらいだろうか。人数は5人。

「いた」

あたしは妙に冷えきった声でつぶやいた。

達郎は少年たちに混じってベンチに座っていた。

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