月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
アイスを入れた袋を片手に、大股でベンチに向かう。

「ちょっとあなた」

呼ばれて振り返るとそこには、60歳ぐらいのご婦人がチワワを抱いて立っていた。

パーマがかかった髪を紫に染め、指には派手な指輪がひとつ。

けばけばしい口紅と同色の眼鏡をかけ、ラメの入ったTシャツに見事なくらい黒光りしたパンツ。

ああこの町にもこんな人いるのねと軽い感動を覚えた。

しかし感動ばかりもしてられない。アイスもあるし。

「なんでしょうか」

あたしはチワワを抱いた婦人、略してチワワ婦人に言った。

「あちらの方、あなたのお知り合い?」

チワワ婦人の視線の先には達郎がいた。

「はい、そうですが」

とぼけても仕方ないので素直にうなずく。

「彼がなにか?」

「いえね」

チワワ婦人は震えるチワワを抱き直しながら言った。

「あたしが公園に来たらあの人が子供たちに話かけてたのよ」

「子供たちにですか?」

「そう」

チワワ婦人はうなずく。

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