月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「でね、近ごろ物騒でしょう。なのであたし声をかけようとあの人に近付いたのよ」

チワワ婦人はその外見に反して熱き正義の心の持ち主のようだ。

こういう人が一人増えただけで世の中はうんと良くなる。

でもその正義の刃が、あたしのイトコに向けられるとは夢にも思わなかったが。

「でもそうしたら、逆にあたしが警察の人に呼び止められたのよ」

その警察の人とは酒井課長のことだろう。

「あの人、ボランティアで警察の捜査に協力してるんですってね」

チワワ婦人は声をひそめた。

「ね、どんな事件の捜査してるの?」

眼鏡の奥の瞳に、好奇心という名の光が宿っていた。

あたしは黙って自分の警察手帳を見せた。

「警視庁のかた!?」

チワワ婦人は目を丸くした。

「わざわざ本庁の刑事さんが来るぐらいなんだから、大きな事件よねぇ」

「申し訳ありません。守秘義務がありますので」

あたしは深々と頭を下げて、きびすを返した。

< 27 / 59 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop