月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
達郎はいつものスーツ姿ではなかった。

胸元が大きくあいた白いVネックの上に黒の半袖シャツを羽織り、下はジーンズ。

珍しい服装だった。

「ずいぶんラフね」

「今日は歩くと思ったからな」

「歩く?」

問い返したあたしに達郎は一枚の紙を見せた。

それは「公園を出て…」から始まる、松村が遺したあの一文だった。

文章には達郎自身による注釈がいくつも書かれてあった。

達郎はA4サイズにコピーした扇町の地図も見せてきた。

そこにも多くの注釈と、メモ書きがあった。

「探索(クエスト)開始だレミ」

「暗号が解けたの?」

「およそ九割」

あたしたちの仕事は奪われた300万円を見つけだすこと。

暗号の九割が分かっても実際に300万を見つけだせなければ意味がない。

酒井課長の表情を思い出し、身震いがしたが、このまま何もしないわけにはいかない。

まずは動かないと。

達郎だって可能性がなければ動かないはず。

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