月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
目撃証言から捜査線上に松村の名が浮かび、事件の翌日にスピード逮捕された。

松村が逮捕されたというニュースが流れた時、周囲の人間はみな驚きの声をあげたという。

松村がおよそ犯罪とは縁遠い人間だったからだ。

「あの人に限って」

とはよく聞く言い回しだが、松村の場合は正にその典型だったらしい。

松村は子供の頃から無口で温和な性格で争いごとをした事は一度もなかったという。

中学を出てからは両親の営む雑貨屋を手伝い、その両親が他界してからはその後を継いだ。

結婚はせず独身で、生涯を通じてB市の町から一歩も出なかったという。

数少ない友人たちの証言によると松村は「平凡でひたすら単調な毎日」を好んでいたそうだ。

ではなぜそんな男が強盗事件を起こしたのか。

その理由は松村が悪性のガンを患ったことにあった。

ガンが見つかった時、松村は余命は一年と宣告された。

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