月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「なによそれ」

ならいま引きあいに出すなっつーの。

「でもこの暗号は存在しない地名が書いてあるだけで、意味不明な文字の羅列じゃない」

寓意法の可能性は高いと達郎は言った。

「その寓意法と子供たちがどう重なるわけ?」

「遠回しな表現を使っているわけだから、解読するには視点を変える必要がある」

そこで思い当たったのが松村が駄菓子屋の主人だったということ。

「もしかしたらこの文章は子供の視点で書いたんじゃないかと思った」

「子供の視点?」

あたしは自分の手帳を開いて、そこに書いておいた松村の文章をまじまじと眺めた。

確かにワニの谷やなぞのやしきなんて言葉は子供の発想だ。

「平仮名も中途半端に多いだろ?」

言われてみれば確かに。

「駄菓子屋を営んでて、子供好きだった松村は、この町の子供たちと交流があったはずだ」

「つまり子供の視点で文章を書くことができたってこと?」

達郎はうなずいた。

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