月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「そうか、そういうことになるのよね」

酒井課長のために何としてでも300万を見つけなければと思っていたあたしだが、知らずに犯人の掌に乗っていた。

なんとも皮肉な話ではないか。

「まぁオレは知ってて掌に乗ったけどね」

達郎は両手を広げ、小憎たらしい仕草をした。

あたしは無言で歩み寄りその足を踏みつけた。

「痛っ!」

面倒なので謝ったりはしない。

「ワニの谷はまだ?」

達郎は顔をしかめながら少し先の曲がり角を指さした。

「子供たちによるとそこを曲がったとこ」

行ってみるとそこは何の変哲もないただの坂道だった。

あえて特徴をあげるとすれば、けっこう急な下り坂で、左側の壁が上下の二層に分かれていることか。

下側の壁がお城のような石垣作りになっている。

「これのどこがワニの谷なの?」

あたしの問い掛けに対し達郎は身を躍らせた。

壁は石垣の部分がせり出しており、達郎はそこに飛び乗ったのだ。

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