月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
目を丸くしたあたしに向かって達郎は

「そこにワニがいる」

と足もとを指さした。

…。

この男、暑さでアタマをやられたか?

「子供たちの中ではそういう設定なんだよ」

あたしの表情を見て、達郎は苦笑いしながら補足をした。

つまり子供たちの間で、この石垣から落ちずに坂を通り抜けるという遊びがあり、それを盛り上げるため石垣の下には凶暴なワニがうじゃうじゃいることになっているのだという。

「だからワニの谷か」

いかにも子供の発想だ。

あたしが納得すると達郎はそのまま石垣の上を歩きはじめた。

「ちょっと、降りなさいよ達郎」

子供じゃあるまいし。

「だってワニに喰われたくないから」

達郎は冗談とも本気ともつかない口調で言った。

「アホらし」

面倒だし、放っとこ。

あたしはそのまま歩き出した。

すると達郎が振り返って言った。

「レミ、ワニに喰われるぞ」

…。

…くだらない。

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