月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「これは『ところてん』と読む」

へぇ、これで?

「でも子供たちは当然、これを『ところてん』とは読めない」

『しんた』とか『こころぶと』といった風に読んでみるものの、それが何なのかはわからない。

その結果あの店はなんだろうということで子供たちの間で話題になる。

「それが松村の耳に入りここが『しんたの家』になったんだ」

そこまで言うと達郎は店の中に入ろうとした。

「ちょっ、どこ行くの」

あたしはあわててその腕をひく。

「休憩しようと思って」

さも当然といった顔で言い切る達郎。

「なに言ってんの、いま勤務中よ」

「オレ警官じゃないし」

…いつもは警官でもないのに色々やらかすくせに…。

仕方なしにあたしも店に入ると達郎は『しんた』こと、ところてんを2人前注文した。

「黒ミツと酢醤油がありますが」

店の人にそう言われ

「黒ミツ」「酢醤油」

と同時に答える。

どっちがどっちを注文したかは分かるよね?

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