月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
柵ごしに見える畑には、ナスやトマト、トウモロコシといった夏野菜が立派に実っている。

松村が事件を起こしたのは半年前。

そこで奪った金をここにあった『謎の屋敷』に隠したとしても、たった半年で屋敷が壊され、農地に生まれ変わるとは考えにくい。

そこのところどうなのと達郎に訊こうとした。

しかし達郎はその問いを受けるのを拒否するかのように、視線を下に落として唇を尖らせていた。

それは達郎が推理に行き詰まった時にやる仕草だった。

「もしかして『謎の屋敷』はまだ解読できてないの?」

あたしは恐る恐る尋ねてみた。

達郎は無言でうなずく。

そういえば、はじめに暗号は「九割」解読できたと言っていた。

ついさっきだって最後の難題が待ってると言ったばかりではないか。

あたしは焦りを覚えた。

酒井課長とのやり取りを思い出したからだった。

酒井課長はあたしたちを信じ、すべてを任すと言った。

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