月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
あの期待に応えなくてはいけないし、思いを裏切ることはできない。

ここは達郎に頑張ってもらわないと。

そんな思いをこめて達郎を見た。

表情は変わってない。

いや、険しさは先ほどより増している。

首筋まで流れ落ちる大量の汗は、暑さのせいだけではないはず。

ここでようやく自分が間違っていることに気づいた。

あたしはバックからハンカチを取り出して達郎の顔に当てた。

そして空いてる方の手で自分の頬を思い切りひっぱたいた。

「レミ?」

「蚊がいたの」

嘘だった。

本当は自分への罰のつもりだった。

必死な達郎に頼るだけで何もしない自分に、ものすごく腹が立ったのだ。

「周りを一周してみよ」

達郎の汗をふきながら、あたしは言った。

「なんかヒント見つかるかもしれないし」

達郎にばかり必死な思いはさせられない。

お目付け役だって頭を使わないと。

すると、達郎の手が伸びてあたしの頬に触れた。

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