月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「謎の屋敷がここだって言われても…」

あたしは柵ごしに畑を眺めた。

見えるのは暑い日差しを受けて瑞々しさが映える夏野菜たちだけ。

屋敷は跡すら見えない。

「これ読んでみろレミ」

達郎は扇町菜園とある看板を指した。

正確に言うと『菜園』という文字だけなぞった。

「心太(ところてん)や径(みち)みたいに別の読み方をしてみろ」

別の読み方…?

しばらく考えた後、あたしの脳裏にある考えが閃いた。

『菜園(さいえん)』を別の読み方、『菜(さい)』を『な』。

そして『園(えん)』を『ぞの』と読んだら…

『菜園』が『なぞの』になるではないか。

「わかったみたいだな」

あたしの表情から理解したことを読み取った達郎は、満足気な微笑を浮かべた。

「『謎の』は理解できたわ」

あたしは言った。

「でも『屋敷』は?」

問い掛けに答えるより先に、達郎が菜園の柵に手をかけた。

そのまま一気に柵の向こうへと身を躍らせる。

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