月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
柵の高さはあたしより頭ひとつ低いぐらいだったから、乗り越えるのはたやすかった。

が、今の問題はそこではない。

「ちょっと達郎!」

警察官の目の前で不法侵入するんじゃない!

しかし達郎に立ち止まる気配はまったくなし。

仕方なくあたしも柵を乗り越えた。

ホント今日はパンツスーツで良かった。

達郎は無言でずんずんと菜園の中を進み、ある畑の前で足を止めた。

「レミ、ここが『謎の屋敷』だ」

その畑には「屋鋪(やしき)」という立て札があった。

「そういや元プロ野球選手に屋鋪って名字の人いたわね」

菜園にある屋鋪さんの畑が『謎の屋敷』か。

「ここに300万が埋められてるのね」

「いいや」

達郎は首を振った。

「思い出してみろ、暗号の最後の一文を」

あたしは手帳を取り出した。

暗号の最後の一文は確か…。

【謎の屋敷の上にある】

「上?」

あたしは空を見上げた。

しかしそこにあったのは照り付ける太陽と青い空だけ。

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