月と太陽の事件簿7/ブラームスの小径(こみち)
「酒井課長、どうするつもりなのかしら」

強盗事件で奪われた金を犯人から預かったにも関わらず、それを黙っていたのだ。処分なしで済むはずがない。

下手すれば共犯者として逮捕される可能性だってある。

「オレたちの任務は奪われた300万を見つけることだ」

達郎は言った。

「今後の身のふり方については酒井課長が自ら判断するだろうし、それ以外は県警の上層部が決めることだろう。いずれにせよオレたちのすることはもうない」

確かにそうだろう。

しかしあたしの胸の奥には何かがつかえていた。

「ねぇ達郎」

あたしはそれを口に出さずにはいられなかった。

「子供の頃の思い出ってそんなに大切なものなのかしら」

それこそ、警官の使命をおざなりにしてしまうほどに。

達郎はしばし考え込んだ後、どこかあらぬ方向を見ながら言った。

「松村も酒井課長も50歳を過ぎてたんだよな」

視線を追っていくとそこは菜園の柵の外。

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