芸能人に恋してる...

「いよいよだね。」

「うん。」

「頑張ろうね。」

「うん。」

「じゃあ、明日ね。」

「うん。」



うん。
しか言えなかった。正直、行くのをやめようとも思った。緊張してるんじゃなくて、惨めになるだけなんじゃないかって思った。

だけど、目覚ましは鳴った。


「ヤバイよぉさやぁ〜」

「私、ぜんぜん緊張してないよ」

「えぇ〜。さやは強いねぇ」

「そんなことないけどさぁ」

あっちゃんはずっーと電車の中で自己PRの手話を練習してた。どうしよう、どうしようばっか言ってた。でも、張り切ってるのはあっちゃんのほうだった。

私は、ぜんぜん緊張していなかった。昨日の夜はあんなに不安だったのに。不思議だった。

「ちょっと早く!おいてくよ。」

「待ってよぉ」

私はせかした。なぜなら、午後から劇団の稽古があるから。みんなにはオーディションを受けることは言ってない。別の理由で遅刻すると言ってあった。だからさっさと終わらして帰りたかった。

夏休み中盤。時期も時期で応募者がかなりいた。1次審査に通過できるのは70人に2人の割合。無謀すぎる。それに、期待なんかしてなかった。落ちて当たり前って思ってた。人生初のオーディションで私の順番は1番最初だった。ちょっとだけ緊張したけど失敗なく自己PRすることができた。
でも、案の定結果はダメだった。だけどなんとも思わなかった。