Lの境界線
『夏、自転車』
『夏、自転車』
「海に行きたい」
ポツリ、とくぐもった声が聞こえた。
広げた本を顔の上に乗っけた俺の悪友は、本が落ちるのにも関わらずに ガバリッ と勢いよく起き上がった。
「なんでいきなり?男三人で海に行っても何もいいことなくね?」
別の方向から、小刻みに揺れるような声が聞こえた。
悪友その2が、扇風機を占領した状態のまま、視線だけを悪友その1へと向ける。
つーか待て、お前ら一体人ン家で何してんだよ。
「おいコラ、宿題終らせに来たくせして何言ってんだテメェら」
「あー、海、海かぁ。いいな、シュン、俺も行きたいかも」
すかさず悪友その2ことケンが言葉を挟む。
あっ、こいつ逃げたな。
「さっすがケンちゃん、わかってるね~」
対して呟くシュン、だが無表情である。
あれ?なんかどうでもよさそうじゃね?
……まぁアレだ。正直なところ、俺ももう、一人だけ真面目に宿題やるのも飽きてきたし。
それに、今年はまだ海に行っていない。そろそろ行ってもいい頃だろう。男三人だが。
「……仕方ねーな」
「うはっ、マコちゃん良い男」
シュン、再び無表情。
無表情で気持ち悪いことを言うな、マジで気持ち悪いから。
「どうやって行く?確かに海は近いが、徒歩じゃキツイだろ。俺のチャリは一台しかないわけだし」
考えながら言う。
徒歩がダメなら走るか!……とか、こいつらなら本当に言いそうで怖い。
「んなの簡単じゃん」
ゆったりとした口調で、ケンが言った。
「三ケツすればいいんだよ」