Lの境界線
ああ、そうだ。
もうすぐ、彼女の。
「……そっか。『サユリ』の、ね」
サユリ、自分の声がその名を呼ぶのはとても久しく、妙に懐かしく感じた。
もう、二年も経ったのか。
未だに信じられなかった。
それほどに日常は淡々としていて、あの日の冷たい、でも綺麗だった彼女の姿は夢だったのではないかと思う。
きっと彼女はまだ何処かで笑っているのでは、きっと彼女はまだ俺に『好きだ』と言ってくれるのではないか。
でも、現実は残酷で。
彼女は、もういない。
幼馴染みのヨーコとアキラ、そして彼女の弟であるショウが大泣きしていたのを覚えている。
情けないことに、俺はただ虚ろな目をして彼女の前に立っていたらしい。
そして数秒後、目からボロボロ涙を流しながら、冷たくなった彼女にしがみついたのは覚えている。
一ヶ月近く放心状態で、一度死にかけて、アキラにきっついビンタをお見舞いされたのも覚えてる。
ヨーコに泣きながら罵倒され、ショウには殴られた。
「……公式、まとめるか」
力無く、あの日と同じような目をして俺は笑顔を作った。
ショウは、泣きそうな顔で、ただ頷いただけだった。
――――――サユリ、もうすぐ冬だよ。お前の好きだった冬がくるよ。
なぁ、そっちも寒いのか。
心の中で呟き、俺はルーズリーフにシャーペンを走らせた。