Lの境界線
#1 やさしい思い出
――――――思い出は、優しい。故にとても残酷だ。
図書館からの帰り道、お互いの家が近くにあるから、俺はショウと肩を並べて帰った。
ショウは、よくわかりました、だの、ありがとうございます、だの言って、ひたすら俺に感謝し続ける。
ああ、とか、うん、とか言って受け流していると、自然に会話がなくなってしまった。
だってそうだ、頭の片隅に彼女との思い出が蘇ってくるのだから。会話に集中なんてできない。
俺は、今どんな目をしているのだろう。見たくもないが。
「僕、この前フラれたんです」
不意に、意を決したような真剣な声音でショウが言った。
「……へっ?」
唐突に言われたその言葉に、思わず間抜けな声が漏れる。一気に脳が冴えた。
「ヨーコ先輩にです」
「え、ヨーコって……あいつ、ケンと」
「承知の上ですよ。フラれることもわかってました。ただ」
自嘲するかのように微笑み、彼は言う。
「落として欲しかったんです。諦めさせて欲しかった。でも、それだけじゃありません、僕は無意識の内にヨーコ先輩に姉さんを重ねてたんです」
とんだシスコンですね。
笑い、ショウは切な気に目を伏せた。
「姉さんはもう居ないんだ、この人は姉さんじゃないんだ、ってやっとわかって」
言葉が、スッと止まる。
何を意図しているのかわかってしまい、俺は顔をうつむかせた。
この子は、変わった。
やっと、そしてちゃんと受け止めたのだ。
――――――でも、俺は。
「お墓参りに、行きましょう。もう一度、姉さんに会いに行くんです」