Lの境界線
もう一度会いに行くのは、僕だけですけどね。と、ショウは笑う。
そうだ、もう一度行くのはショウだけなのだ。俺は一度も彼女の墓前に立ったことがなかったのだから。
ああ、そうか。それこそ、彼女が居ないという現実から逃げた証じゃないか。
彼女の死の証を見せつけられるのが怖いんだ。
「祥太郎、」
彼女によく似た彼の、愛称ではない、本名を呼んでやる。
ショウは俺を変えようとしているのだろう。自分は変われた。だからきっと貴方も変われるはずです、と。
「お前、成長したな」
頭を撫でてやると、ショウは複雑そうな顔で笑った。
その仕草が、彼女を彷彿とさせる。が、この子は彼女の弟であり、彼女ではないのだ。
俺の愛した人は、もう居ない。
わかっていた。
受け入れなければならない、と。
わかっていた。
弟である彼を見る度にだけではない、日常のさまざまな出来事、友達の態度や仕草に彼女を探していたこと。
わかっていた。
そんな自分は、きっと哀しい人間なのだと。
わかっていた。
全部、全部。
「……ああ、行こう」
彼女に会いに行こう。
そして伝えよう。もうすぐ冬が来ることや、将来の夢、ショウの背がのびたこと、日常の些細な出来事でも、なんでもいい。
とにかく、彼女に。
「サユリに会いに行こう」
呟くように言った一言に、ショウが悲しいそうに、嬉しそうに笑った。