Lの境界線

「……ああ……なんて夢を……」

跳ねるように起き上がり、頭を抱える。
目元が濡れていたのに気付いて、どうしようもない気持ちに駆られた。

夢は人の願望を写すらしい。
だいぶ前に悪友の一人が言っていたことを思い出す。

願望、すなわち、今の場合は、

「……会いたい、か」

サユリに会いたい。もう一度会って、話がしたい。

……わかってるさ、もう無理なんだって。

自分の情けなさが苛立たしかった。
何度言い聞かせたかもわからない言葉、それを聞く度に苦しくなって、目の辺りが熱を持つのだ。

昔のことなんか思い出して、すごく後悔する。
もっと愛してやればよかった。優しくしてやれたら、守ってやれたら。

そうだ、月並みな言葉だけど、本当だったんだ。歌の歌詞なんかにあった、あの言葉。

『大事なモノは、失ってから気付く』

遅い。遅いんだよ、それじゃ。
サユリは俺にとって、そこに居る事が当たり前の存在だった。
当然のように笑い、嫌なことがあって落ち込んでる日には慰めてくれて、抱き締めあって、愛しあって。
……空気があるみたいに、当たり前だった。

でもダメだったんだよ。それじゃあ。
サユリは、当たり前の存在なんかじゃない。サユリは俺の中で一番特別な他人で、一番好きな一人で。
それを、俺は。

「当たり前なんかじゃなかったのに」

ゆるやかにパニックを起こしている頭。
落ち着かせるように吐き捨てると、浅く空気を吸い込んで目を閉じた。

瞼の裏には、一面に広がるスイトピー。
彼女が好きだった、スイトピーの花。




スイトピー、花言葉は
――――――優しい思い出
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