Lの境界線
『放課後、境界線』
男を、一人フッてきた。
良い人だったと思う。
でも、恋人関係になるには、私はその人の事を知らなさすぎた。
彼は私に、いつ私を好きになったのか、どんな所が好きか、どれくらい好きかを、「愛してる」「好き」みたいな言葉をたくさん使ってずっと語っていた。
とても優しく、とても真剣に。
彼は本気で、私の事を愛しているようだった。
でも、
私は、彼の事を知らなかった。
全くと言っていいほど知らなかった。
顔は見たことがある、会話も少しだけ。
でも特に仲が良かったわけじゃないし、会話の内容だって事務的なものだったりしたから、プライベートでは全く関わりがない。
彼は私の事を知っているんだろうけど、私は彼を知らない。
そんな私に、彼を愛することは、きっとできないだろう。
そう思って、私は彼をフッた。
「ごめんね」
と、言い辛そうな表情を作った私の言葉を聞いた後の、彼の悲しい微笑を思い出して、私は何だかとてつもない罪悪感に襲われた。
仮に「いいよ」と笑ってみせたところで、彼は喜ぶかもしれない。
でもそれは、私の本心ではない。きっとただの同情だ。
好きになることもできないのに彼と付き合い、偽りの笑みを作り出す。
最悪だ、そんなの。
それに、そんなことしたら私はきっと日々罪悪感にさいなまれるだろう。
自分を傷つけ、相手を騙す。
そんな未来ならいらないと思ったから、私は彼をフッた。
その場で、傷つけた。
今傷つけるか、ずっと騙し続けるか。
結局は二者択一で、どちらを選んでも同じなのである。