Lの境界線
「……で、誰に?」
気をとりなおしたつもりか、マコはコホン、と咳払いをして尋ねてきた。
誰に告白されたのか。
そう聞かれたと認識して、私はハッとした。
私は、彼の名前を知らないのだ。
正確に言えば、覚えていない。
最悪だ。自分を好きになってくれた子の名前を覚えていないなんて。
やはり、私には彼を愛することはできないのだ。
「……知らない」
言葉をつむぐのに罪悪感を覚える。
きっと私は酷く辛そうな顔をしていたのだろう。
マコは察したように、
「そうか」
とだけ呟いた。
「……全然知らない子だった。会話も、数えるくらい。しかもプライベートなことじゃない」
「……ふーん」
「そんなほとんど面識の無いような女子の何処を好きになったのかって聞いたらさ、いっぱい話してくれたよ」
「……」
沈黙が、再び広がった。
気まずいと言うよりは何となく、話題にふさわしい沈黙な気がした。
そんな沈黙の中で、やっぱり私の胸は罪悪感でいっぱいになっていた。
フッたことで彼を傷つけた上に、名前を忘れている。
無意識に人を傷つけるのが、これほど辛いとは思っていなかった。
私は、彼の気持ちを侮辱したのだ。
「んー……」
不意にマコの考えるようなうめきが耳に入る。
マコは腕を組んで一時考え込んでいたかと思うと、私と視線を合わせ、驚くほどに軽々しい言葉でこう言った。