さうす・りばてぃー
 俺が上機嫌に歩いていくと、やがて自分の住むアパートが視界に入ってきた。

 全体的に白い建物で、「さうす・りばてぃー」とアパート名が建物の上部に書かれている。

 なぜひらがななのかは謎だ。アパート名なんてたいていは意味不明のカタカナで綴られているものだが。
 真ん中の点も含めて、家主の趣味なのかもしれない。

 築6年だから、比較的新しい建物だ。部屋数は一階と二階、合わせて14。

 場所柄、俺と同じ希望が丘学園の学生も何人かいそうだ。というより、このへんは一戸建てが多く、学生の一人暮らしができるアパートなんてのは限られている。

 ちなみに俺はここの102号室で、達也は103号室。隣同士である。

 一応誤解のないように言っておくが、決して俺は達也の隣の部屋を希望したわけではない。

 家賃が安くて、一人暮らしができて、学校に通える距離のアパートは限られていただけのことだ。

 加えて、俺と達也が部屋を見に行った時期は結構遅かったから、もう空いているのがここくらいしかなかったのだ。

 俺がそのアパートの敷地に入り、部屋の前まで来ると、俺の部屋の前に、女の子が立っていた。

 その後姿、どこかで見たことがあると思いながら近づくと、さっき大通りで会った女の子だ。

 彼女は俺の部屋のチャイムを押して、反応を待っている。

「よう」

 俺は荷物を抱えたまま、彼女に挨拶をした。

 彼女は驚いて振り返り、それから俺の姿を見て笑顔になった。

「あっ、お兄ちゃん!」

 彼女はご機嫌のようだ。彼女の着ている白いパーカーが、夕日に映えていた。
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