さうす・りばてぃー
 サンダルを履いているのは、今日はあまり歩かないことを見越してのものだろう。

 達也は昨日に引き続き、今日もジーンズ姿である。

 こいつは服を一着しか持ってないんじゃないだろうか、とかときどき思うのだが、昨日やつのカバンを見たらジーンズが二着入っていたので、そういうわけでもないのだろう。

 もっとも、俺もこの三日間ではくものは、今はいているひざの高さまでのショートパンツに、昨日はいていたチノパンのみだから、あまり人のことは言えない。

 もう一着持ってくればよかったかとも思うが、昨日の見由の例もあるし、荷物は軽くしておくに限る。

 しばらく歩いていると、貸しボート屋に行き当たった。

 小屋の横にボートがいくつかおいてあった。

 30分1000円と書いてある。

 まだ早いせいか、ボートに乗っている者は誰もいない。

「借りてみるか?」

「いいね」

 特に反対するものもなく、俺たちはボートに乗ることになった。

 ボートは二人乗りなので、2:2に分かれる。

「見由ちゃん、私と乗る?」

 そんなことを、穂波が言っている。

「ウェイト」
 達也が言った。

「wait?」
 聞き返す俺。

「wait」

「wait!」

 英語の発音について、競い合ってみる。が、バカらしくなってすぐやめた。

「一言だけ言わせてもらおう」

 達也はコホンと咳払いをした。

 まあ、聞かなくてもやつの言いたいことくらいはわかる。

「ここまで来て、男二人でボートに乗せるというのは、死ねと言われてるのに等しいんじゃないだろうか」
 予想通りである。

「おおむね賛成」と俺も言っておく。

 死ぬかどうかは別にして。
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