さうす・りばてぃー
「んと、じゃあ、男同士、女同士でジャンケンして、組を決めればいいんじゃないでしょうか?」

 見由が提案してくる。

 その提案どおり、俺たちはジャンケンをして組を決めた。

 勝ったのは、それぞれ達也と穂波。負けたのは、俺と見由。

 かくして、俺たちはそれぞれボートに乗り込んだ。

 ボートは手でこぐ、昔ながらのカヌー形式である。

 こぎ役は、当然俺と達也。

「ボートなんてこぐの初めてだ」

「俺もだ」

 俺と達也のボートは、今のところ接近している。

 最初のうちは、こぎ方がわからず、なかなか進まない。

 徐々にわかってくると、俺たちのボートは、平行して湖面を漂い始めた。

 パシャ、と音がして、俺のボートが進む。

 それを見た達也が、パシャン、と音をさせて、それを抜くようにボートを進ませる。

 それを見た俺が、また一段大きな音をさせて、ボートを猛進させる。

 やがて――――

 ばしゃばしゃばしゃばしゃ!

 湖面は小さな競艇場と化した。

 おとなげなくボートを必死でこぐ、俺と達也。

「がんばれ、お兄ちゃん」

「達也君もがんばれー」

 女二人は楽しそうに声援を送ってくれる。

 俺たちは必死だった。

 いや、冷静に考えると何も必死になる理由はないのだが、ただなんとなく。
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