さうす・りばてぃー
 俺の部屋の中はまだ雑然としていた。

 かろうじてカーペットが引いてあったが、座布団やクッションはない。

 今日買ってきた買い物袋が、そこらじゅうに転がっている。

「何もないけど、その辺に座ってよ」

「本当に何もないな」
 達也は無遠慮に言う。

「お前には言ってない」

 俺は厳しく言った。見由は、それを聞いてくすくす笑う。

「あ、コーヒーとお茶、どっちがいい?」

「じゃあ、お茶で」
 と見由が言った。

「俺はコーヒーで」
 達也が言う。

「二人ともお茶ね」
 俺はあっさり言うと、お茶の缶を開けた。そして、同時に湯を沸かす。

「ひでえな。女の子だけ特別待遇かよ」

「別に女の子を特別待遇してるわけじゃない。おまえを差別待遇してるだけだ」

 俺と達也の、いつものやり取りが行われる。それを聞いて、見由はまた笑った。わりと上品な笑いだ。

 やがて、湯が沸くと、俺は手際よく三人分のお茶を入れた。

 カーペットにあぐらをかいている達也と、正座している見由の前に、それぞれお茶とお菓子を配る。

「おいしいです」

 お茶を飲みながら、見由が言った。

 仕草といい言葉遣いといい、小学生にしてはきわめて上品な子だ。親のしつけがいいのだろう。

「うん、うまいな」

 お菓子を頬張りながら、達也が言った。

 仕草といい言葉遣いといい、高校生としてはきわめて下品な子だ。親のしつけ、ではなく、本人の性格が悪いのだろう。

「ところで、見由ちゃんは……」

「見由でいいですよ」

 見由が言った。俺は訂正して、言いなおす。

「見由は、どこの学校に通うの?」

「私は……」と言いかけた見由をさえぎって、俺は続ける。「あ、待った。当ててやるよ。
ええと……光浜第二小学校。どう?」

 地図で見たところでは、このあたりには小学校は二つしかない。

 当たるかと思ったが、俺がそう言った瞬間、見由の動きが止まった気がした。
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