さうす・りばてぃー
「あれ?」

 俺は離れた席に、よく見知った人影を見つけた。

「悪い、ちょっと席外す。すぐ戻るから」

 俺は言い残して席を立つと、その人影に近寄った。

「来夢さーん」

 俺は声をかけた。

「あら、安保君」

 来夢さんは俺のほうを振り向いた。

 その隣には、優しそうな男が座っている。

 俺が声をかけるまで、来夢さんと親しく話をしていた人だ。

「こんなところで会うなんて、珍しいわね。安保君は、誰かとデートかしら?」

 来夢さんはそう聞いてくる。

 からかうわけでなく、純粋な質問のようだ。

 実際、この人から悪意なんて感じたことがない。善意のかたまりみたいな人だ。

 だから、俺も毒舌でなく、普通に返す。

「いえ、友達と来ました。来夢さんこそ、デートですか?」

「そうね、そうとも言うわね」

 来夢さんはそう言って、にこりと微笑む。

 この人の笑顔を見ていると、なぜだかこっちが暖かくなる。

「あ、こちら、バスケ部の後輩の友達で、安保君。前に話したよね? で、こっちが、ええと……なんて紹介すればいいかしら?」

 来夢さんはちょっと首をかしげた。

「友達、でいいんじゃないか?」

 その男の人は言う。その態度で、彼氏かな、と想像がつく。

「はじめまして。来夢の友達で、高山です。よろしく」

 高山さんはそう言って、俺に握手を求めてきた。落ち着いた感じの人だった。

 その手を握りかえす。

「あ、そろそろ試合始まるわよ」
 来夢さんが言った。

「じゃあ、失礼します」
 俺は言い、席に戻った。

「どこ行ってたんだ?」と聞かれたが、適当にごまかした。

 順番に訪問したのでは、来夢さんも迷惑だろう。

< 134 / 194 >

この作品をシェア

pagetop