さうす・りばてぃー
 穂波はこちらに向かって大きく手を振ってくる。

「わっ、ばか」と俺は思わず小声で口に出していた。

 なんて恥ずかしいことをするんだ、あの女。

 周りの視線が、俺に集まってくる。

 俺は赤面する思いがした。

 そんな俺に構わず、穂波は普通に駆け寄ってきた。

「来てくれたんだ」

 穂波は微笑みながら言う。

「いや、ていうか、人前でああいうのやめろよ」

 俺はまともに目も合わせられず、うつむきながらしゃべった。

「ああいうのって?」

 穂波の頭の上あたりに、「?」マークがついている気がした。

 どうも、本気で何が恥ずかしいのかわかってないらしい。

 向こうでは、陸上部の人たちが、俺を見てざわめきあっている。

「誰だよ、アイツ」みたいな声も聞こえてくる。「うわー、ショック」と言っている男もいた。

「もういい」

 俺はあきらめ顔につぶやいた。

「それより、すごいな。県大会4位だって?」

 俺の視力は1.5だから、ここからでも展示は見える――勉強しないから目も悪くならないんだろ、とは悪友・達也の言である――。

 その中に、穂波の名前もあった。

 女子100m12秒4で、4位。

 一年生女子では、唯一のランクインだった。

「うん、なんか当日は体調よくってさ」

「言ってくれれば、お祝いしたのに」

「ありがとう。また今度期待してるよ」

 穂波はそう言って笑う。
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