さうす・りばてぃー
 それにしても、穂波といい星空といい、よく無警戒に俺を部屋に入れるもんだと思う。

 ためしに聞いてみる。

「星空さあ、俺がいきなり襲ってきたらどうするんだ?」

「なによ、突然」

 星空はインスタントコーヒーを入れながら、俺のほうを向く。

「いや、よく俺なんかを簡単に部屋に入れられるなと思ってさ」

「あ、そう。一応、私のこと女性だっていう意識はあるわけね。ふーん」

 星空は口元をゆがめつつ、軽く唸る。

 喜んでいるのか怒っているのかよくわからない表情だが、俺に恋心を抱いているという顔でないことだけは確かだ。

「で、俺がいきなり襲ってきたら?」

 重ねて聞いてみる。

「叩きのめす」

 あっさりと断言されてしまった。

「襲ってみる?」

 笑顔で聞く星空。

 これを誘いだと勘違いすれば、血の池地獄が待っていることだろう。

「遠慮します」

 たぶん、喧嘩しても勝てないような気がするし。

 自慢じゃないが、喧嘩にはまったく自信のない俺だった。

「よろしい」

 ふふんと満足げな星空。

 コーヒーをテーブルの上において、俺の向かいに座る。

「そんなに簡単に男を入れられるんなら、達也もここに呼べばいいのに」

 すると星空は、少し赤くなって、

「ほんとに好きな人って、かえってなかなか入れられないものよ。意識しちゃってさ」

「そういうもんか?」

「そういうものなの」

 星空はずい、と顔を近づけて言った。

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 男だと意識してないから簡単に部屋に入れられるというのはあるだろう。

 ん、待てよ?――――ということは、穂波も俺のことを男として意識してないということか?

 俺は首を振ってその考えを意識の外に追いやった。――――何を考えてるんだ、俺は。

 別に穂波が俺のことを意識していようが意識していまいが、どうでもいいじゃないか。


< 159 / 194 >

この作品をシェア

pagetop