さうす・りばてぃー
 最初に、自己紹介の時間があった。

 俺は出席番号一番なので、最初に順番が回ってくる。

 だが、何を言えばよいのか、わからない。立ったまま、少しの間ぼーっとしていると、

「そうだな、名前と趣味、それに何か一言言ってくれればいいよ」

 先生が言う。こういうとき、あまり目立ったことを言うべきではない。

 変なグループに目をつけられると困る。適当に言って流しておくに限る。

「ええと、名前は安保祐介。趣味は寝ること。特技は、誰とでも漫才ができることです。よろしくお願いします」

 なぜだかわからないが、教室内で多少笑いが起きた。どこか笑う部分でもあったのだろうか。

「はい、じゃあ次」

 先生が言うと、俺の後ろの男が立つ気配がした。

「岩田知です。趣味は、何もしないこと。特技は適当にやることです。よろしくお願いします」

 俺以上にやる気のない挨拶をする男だった。

 しかし、教室内の視線は、なぜか俺のときよりも彼に集中していた。ざわめく声も聞こえる。

 何か今の発言に、面白いことでもあったのだろうか。俺にだけわからない暗語で話していたとか……。

 そんな想像をめぐらしてみたが、馬鹿らしいのでやめにした。

 やがて、見由の自己紹介になった。彼女は見た目からして小さいので、注目も集まる。

「仁科見由です。趣味は、読書と散歩です。部活はまだ決めてませんが、いろいろ見て気に入ったところに入りたいと思っています。よろしくお願いします」

 独特の甘ったるい声だが、言っていることは俺や後ろの男よりしっかりしている。

 さすがに、中身まで子供というのは、多分に色眼鏡の入った見方だったようだ。

 やがて、各自の自己紹介が終わり、先生が順に今後の説明を始めた。

 中でも俺の気に留まったのは、この一言だった。

「明日は実力テストを行う。40点以下のものは、楽しい追試が待ってるぞ」

 うえー、と生徒たちの声が聞こえる。

< 16 / 194 >

この作品をシェア

pagetop