さうす・りばてぃー
 しかし、より場が悪化したのは、それから三十分経ってからのことだった。

「でねー、だから私はだめなんですよー」

 テーブルの上に両腕を重ね、泣きながら言う見由。

 目から、ぼろぼろ涙をこぼしている。

 しかし、言っている内容はさっぱりわからない。俺はそんな見由に圧倒されて、ちっとも酔えないでいた。

「はあ、そうですか」

「うん。ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 見由はそう言って、額をテーブルに押し付けてくる。

 いや、謝られても、よくわからんし。

 とりあえず、見由が泣き上戸だということだけはわかった。

 酔っ払うと星空以上にタチが悪いということも。

 後の俺の課題は、いかにしてこの子を寝かしつけるかということだった。

 夜泣きする子供を持った母親の気分だ。

 達也はまだ帰ってこないし。

 穂波は部屋の隅で座っているだけで、助けてもくれないし。

「お兄ちゃんも、私なんかいなくなればいいって思ってるんでしょう?」

「いや、別にそんな」

「嘘だ。絶対思ってる。思って……」

 見由の言葉が、不意に途切れた。目がうつろになる。

 頭がふらふらと揺れたかと思うと、急に俺のほうに向かって倒れてきた。

 俺の体に身を預けるようにして、眠りにつく見由。

 その姿勢のまましばらく待ってみたが、目を覚ます様子はなさそうだ。

 すーすーと静かな寝息を立てている。

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