さうす・りばてぃー
 酔っ払っているときは悪魔のようだったが、こうして寝ている姿は、あどけなくて実にかわいらしい。
 
 とりあえず、いつまでもこうしているわけにはいかない。

 幸いここは見由の部屋だし、このままベッドに寝かせてあげるのが得策だろう。

 俺は自分の体に見由の頭を預けさせたまま、彼女の両ひざの下に手を入れた。

 彼女の体はとても軽くて、簡単に持ち上がる。お姫様抱っこなんぞをしたのは初めてだったが、思ったより簡単だ。

 俺はそのまま、見由の体をベッドに横たえる。そして、シーツをその上からそっとかけてやった。

「ふう」

 ようやく一息つき、テーブルに戻ろうとすると、穂波がじっと俺のほうを見つめていた。

 なんだか責めるような目だ。

 あれ? と、俺は軽い違和感を感じた。

 普段の彼女なら、こういうとき「おつかれさま」とか言って微笑んでくれそうなものだが。

「どうした?」

 逆に聞いてみる。しかし、俺の視線はあっさりとそらされた。

「別に」

 なぜだかそっけない穂波。彼女はまったくの無表情だった。

 俺は何か悪いことでもしたのだろうか?

「いやいや、疲れたよ」

「ふうん」

 彼女は俺の言葉を、ほとんど聞いてくれない。

 烏龍茶のグラスにささっているストローで、液体をくるくるとかきまぜている。

 烏龍茶をかき混ぜてどうしようというのだろうか。

 かと思うと、リモコンで意味もなくテレビをつけたり消したりしてるし。

 なんなんだ、いったい。

 そのとき、ちょうどいいタイミングで、玄関のチャイムが鳴った。

「お、達也かな」

 逃げるようにして席を立つ俺。玄関を開けると、そこに立っていたのは、達也ではなかった。

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