さうす・りばてぃー
 帰りのタクシーの中では、誰も喋らなかった。

 きっと、いろいろな推測が交錯していたのと、達也がたいした病気でなかったことから来る安心感で、胸がいっぱいだったんだと思う。
 
 そして、さうす・りばてぃーに着くと、俺たちはまた見由の部屋に向かった。

 出るとき慌てていたので、鍵は開けたままになっていた。

 女の子の部屋に、寝ている女の子二人を残して、鍵を開けたまま出て行くとは、なんて不用心なんだろう。

 もし強盗でも入ってたらどうするつもりだ。

 俺はそんなことを自分に言い聞かせた。
 
 ちょっと反省しつつ、扉を開ける。

 中に入っても、幸い、出るときと様子は変わっていなかった。

 電気はついたまま、見由はベッドで、星空は床のクッションに頭を載せて、それぞれ眠っている。

 簡単には起きなさそうだ。

 俺たちは、とりあえずテーブルの上に散らばったケーキや飲み物なんかの片づけをした。

「私、コーヒーでも入れるね」

 人の部屋で、勝手にコーヒーを入れようとする穂波。

 どこに何があるかを知っているみたいなので、この部屋には前にも来たことがあるようだ。

 穂波は手際よくコーヒーを入れると、三人分のカップを、俺たちの前に出した。

 俺はコーヒーをすすりながら、知に聞く。

「なあ知。達也、朝から熱があったんなら、何で無理して出かけたんだろうな」

 すると、知はすべてを悟ったような顔で、静かに聞いてきた。

「仲良くしてる女の子から、イブの日にデートを申し込まれたら、おまえならどう思う?」

 疑問に疑問形で返された。俺はちょっと首をひねる。

「うーん、そりゃあ、もしかしたら告白かな、って思うね」

「そしたら、当日風邪を引いたとしても、キャンセルとかできないよな。いくら断るつもりだったとしても」

「なるほど」

 俺も、それでようやくわかった。

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