さうす・りばてぃー
 俺は少しの間話を聞いていたが、見るに見かねてきた。

俺も決して稀代のナンパ師というわけではないが、少年たちのやり方は、俺から見てもあまりに下手だ。
 というか、相手が嫌がってることにいい加減気づけ。

 可哀想だから、助けてあげようか。定番であれば、俺が少年二人を殴り飛ばして、少女漫画のナイトのように去ってゆくべきだろう。

 ――――とはいえ、自慢ではないが、俺は腕力にまったく自信がない。

 それに、何もナンパくらいで殴る必要もあるまい。最近の少年は、よくナイフなんかも隠し持っていると聞く。君子危うきに近寄らずという言葉もある。

 俺は心の中でいくつか言い訳を考えてから、その場を無難に通り過ぎることにした。少年たちの背を、さっさと通過する。

「と、通してください」

 そばに来ると、女の子の声が耳に入る。眉を寄せている困った顔も、目の中に入ってくる。

 ――――いかん、無視だ無視。刺されたらどうする。

「ちょっと、君たち」

 心の葛藤とは裏腹に、俺は思わず声をかけていた。少年たちが、合わせたようにこちらを振り向く。

 その顔には、「誰だこいつ」と書かれてある。しかし、俺はその次の言葉をまったく考えていなかった。

「その手を離せ。俺が来たからには、ただで帰れると思うな」

 などと、俺に言えるはずがない。喧嘩の弱い俺のこと、袋叩きにされるのがオチだ。

 ここは、頭の回転、いや舌の回転を速めて切り抜けねばなるまい。幸い、そっちのほうには自信がある。
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